「あの連中を後ろ手に縛れ」
「はあ？」
「聞こえたはずだ。急いでマストへ登れ。大檣帆の帆桁端の滑車に索を通せ。――おまえたちは海賊だ。これからおまえたちを絞首刑にする」
「われわれは海賊ではない」
「いや、そうだ」
「われわれは自然保護団体の構成員だ」
「海賊だ。その索の端に絞首の輪をつけろ。全員だ。一人ずつ順に」
「サー……何をしようというんですか」
「自分の仕事に精を出そうというのだ。あなたも同様にやってくださいとお願いしてもよろしいかな？」
「しかし、本気でこの可哀そうな連中を絞り首にすると言っているわけがない」
「ところが本気でそうするつもりなのだ」
「しかし、まさかわたしの船で――いますぐ――裁きもしないで、やりはしないでしょうね」
「あんたの船でだ――あんたが攻撃を受けたこの船で。しかも今すぐに。現行中に捕まえた海賊は、承知のとおり、即座に絞首できる。それをやろうというのだ。天皇陛下の海上保安官が任務を遂行するのを妨げることは控えていただきたい。おい、そこの二人、ここへ来い」
「艦長、とにかく、ここはひとまず見合わせて、陸上で裁判をうけさせるわけにはいきませんか。海賊かどうか、じきにはっきりわかるでしょう」
「わたしは彼らがぶら下がっているところを見たいのだ。この連中が彼らの言うようなものだなどとは、とうてい信じられない。ただのテロリストの集団だ。海賊だ。その綱に四人つけろ。引っ張る時は命令する」

「トルコ沖の砲煙」（ホーンブロワー・シリーズ）セシル・スコット・フォレスター著、高橋泰邦訳、ハヤカワ文庫　より。なお引用に際し抜粋および一部の改変を行った。


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