失われた技術、目視識別の技を復活させよう

カルロス・ロゼンデ大尉
アメリカ海軍協会報 2017年７月号

　多くの海軍力に囲まれた敵対的水域を航行中、アーレイ・バーク級駆逐艦のブリッジ・クルーが水平線上に船を発見した。
　レーダーにもそれは映っていたが、自動識別装置（ＡＩＳ）からは何の情報も入ってこない。戦闘情報センター（ＣＩＣ）からは、付近を行動する軍艦はないと報告が上がってきたが、近づくにつれて船影はあきらかに軍艦であることがわかった。
　――このよくあるシナリオで、艦艇乗組の士官が次にやるべきことは決まっている。ジェーン海軍年鑑の「軍艦」のページを急いでめくって、水平線上の船影と年鑑の小さな写真を照らし合わせることだ。ＣＩＣの当直員は電子光学・赤外線センサーを向けてより拡大した画像を得ようとするだろう。そして他の方法では識別がつかなかったら、「スヌーピー」チーム（Ship's Nautical Or Otherwise Photographic Interpretation and Examination, 情報収集のために遭遇した艦船の写真を撮影する部署）が呼ばれて識別の手助けをすることになる。最後には当直員がその船のクラスと国籍を報告することになるわけだが、そこには誤認がつきものである。

　艦艇乗組の士官であっても、船や飛行機を目で見て識別する公式の訓練は受けていない。信号旗の揚げ方やモールス信号と同じく、船や飛行機を識別するのは船乗りとしての基礎的な技能のはずだが、艦艇乗組士官の訓練課程からそれは抜け落ちているのだ。
　識別訓練は初等分隊士訓練のカリキュラムには入っていないし、上級分隊士訓練にも入っていない。艦艇乗員資格訓練にもこの技能は入っていない。この技能は徒弟制度の修行と現場実務の上で学んでいくしかないのである。
　この結果、多くの艦艇乗組士官は「グループＩ」の商船と「グループIII」の商船の区別すら十分には教えられずに過ごしてしまうのである。（訳注：客船とタンカーの識別もできない、という感じ）

　過酷さを増す海上活動の分野において、我々は敵艦が、余計な情報をもらす発信源を隠し、我々の海上交通にまぎれて行動し、こちらに不利な気象条件を利して、我々の気づかないうちに接近してくることを予期しなければならない。
　そのような脅威に対しては、艦橋当直の目が、脅威を知らせる最初のセンサーになることが十分にあり得る。
　艦艇乗組士官は、外国の艦艇や航空機を素早く識別する能力を持たねばならないのだ。艦艇乗組士官は、たとえば中国の旅洋II型とロシヤのソヴレメンヌイ級駆逐艦を素早く識別し、それがＡＮＺＡＣ級フリゲイトではないことを報告せねばならない。また、韓国のＰ−３とロシヤのIL-38「メイ」の区別がつかねばならない。

　このように重要な識別の技能の向上を現場教育にまかせておくよりは、海軍は陸軍に学ぶべきであろう。
　陸軍の少尉は、戦車乗員になるために初等戦車将校指揮課程を受けなければならない。これは18週間に及ぶ座学と野外訓練を含み、受講者に基本的な訓練をじっくりと行うものである。
　この課程では、将校は200種類以上の敵味方の戦車を、名称と目視と赤外線画像で識別しなければならない。仮に米軍の車両をたった１種類間違えたとしても、受講者には追試が待っている。

　艦船と航空機の識別も、陸軍の車両識別と同じように、海軍の一連の初等士官教育の上で教えられるべきである。
　この訓練は乗艦しての訓練とは切り離して行うことができる。すなわち、初等分隊士訓練のカリキュラムに容易に組み込めるのである。
　艦艇配属前の初等士官は、座学の上で前後関係もわからぬままに教えられる不可解な科目――整備、物資の管理、複合戦闘の概念などを理解するのに悪戦苦闘するのが常である。このうちのひとつの科目を、艦船と航空機の識別訓練に置き換えることはできないだろうか？　ひとつくらい削っても、艦艇乗組前訓練で取り返せるのだから。
　第二次大戦の時代の「スポッター・カード」（敵味方の数々の艦船や飛行機の絵やシルエットを描いたカード）などであっても、効果的な訓練の道具になるだろう。いまならスマートフォンのアプリにできるかもしれない。

　目視識別に熟達することは、船乗りにとって重要な技能である。艦艇乗組の初等士官は、敵味方を目で見て判断する能力を持つべきである。
　この基礎的な技術は、陸上の座学でも学び、海上でも磨きをかけることができるし、またそうすべきものなのである。

（ロゼンデ大尉は2012年海軍士官学校卒の艦艇乗組士官。４年間、日本の横須賀の前方配備の駆逐艦で勤務。「海軍歴史雑誌」「海軍協会報」「海軍大学校評論」に投稿の実績あり）

This page is a Japanese translation of the following article.
“Restore the Lost Art of Visual Identification”
Proceedings Magazine - July 2017 Vol. 143/7/1,373
by Lt. Carlos Rosende, USN

translated by Daimyoshibo, 18 July 2017


目次ページにもどる