広島に対する
原爆使用に関する
大統領の発表

アメリカ合衆国大統領　ハリー・Ｓ・トルーマン
1945年8月6日

　16時間前、アメリカの飛行機が、日本陸軍の主要な基地のひとつである広島に一発の爆弾を投下しました。その爆弾はＴＮＴ火薬２万トンを超える威力を持っていました。それは戦争の歴史において使用された中でもっとも強力であるイギリスの「グランド・スラム」爆弾の２千倍以上の爆発力であります。

　日本は真珠湾空襲によってこの戦争を始めました。彼らはその何倍もの報いを受けたのであります。
　そしてこれはまだ最後ではありません。この爆弾によって、我々はますます増大しつつある我々の軍事力に追加して、新しく革命的な破壊力を加えました。現在、この爆弾はさらに製造されつつあり、より一層強力な改良を加えられつつあります。

　この爆弾は原子爆弾であります。これは宇宙の根源的な力を利用したものです。太陽が引き出すのと同じこの力が、極東に戦乱をもたらした輩に対して解放されたのです。

　1939年以前に、科学者の間では、原子の力を引き出すことは理論的に可能であるという確信がすでに認められていました。しかしその時には、その実践的な方法についてはだれも知らなかったのです。
　しかし、1942年までに、我々は、ドイツが世界を奴隷化しようとして進めている戦争の道具として原子力を利用する方法を見つけるために精力的に働いていることを突き止めていました。しかし彼らはそれに失敗しました。
　我々はドイツがＶ−１号やＶ−２号を開発したのがあのように遅く、しかも限られた数しか得られなかったことを神に感謝すべきでしょう。また彼らが原子爆弾を手に入れることに完全に失敗したことについて、より一層、神の御意思に感謝しなければなりません。

　実験室における戦いは、空や地上や海における戦いと同じく、敗北すれば我々に決定的な危機をもたらすものでした。しかし我々はこの実験室における戦いに勝ち、それに従って実験室の外の戦いにも勝ったのであります。

　1940年の初め、すなわち真珠湾攻撃の前に、戦争に有用なこの科学的知識は、アメリカとイギリスの間で共有されていました。この協力関係は、我々の勝利にとって計り知れない助けをもたらしたものであります。この共通の政策のもと、原子爆弾の研究は始まりました。アメリカとイギリスの科学者の共同作業によって、我々はこの発見をめぐるドイツとの競争を始めたのです。

　アメリカは必要な多くの科学的分野における優秀な科学者を多数擁していました。
　計画には工業的にも財政的に巨大なものが必要でしたが、我々はなんとかそれを戦争遂行に必要な他の需要を過度に損なわない形で計画に振り向けることができました。実験室や生産設備はアメリカに置かれ、敵の空襲の手の届かない場所で計画を始めることができました。
　イギリスは当時絶え間ない空襲にさらされているばかりでなく、敵の侵攻作戦の脅威をも受けていたのです。そのため、チャーチル首相とローズヴェルト大統領は、計画はここアメリカで進められるのが得策であると合意したのです。
　我々は今や、原子力の生産に必要な二つの巨大な生産拠点と無数の小さな工場を持っています。最盛期には12万５千の労働者がその建設にあたり、現在では６万５千の要員が生産工場を動かしています。
　大変多くの人員が２年半の間働いてきたのです。そこで何を作っているのか、ほとんどの人員は知りませんでした。大量の資源が生産拠点に運び込まれましたが、だれも完成品が運び出されるのを見ませんでした。爆弾の物理的サイズが非常に小さかったからです。
　我々はこの世界最大の科学的な賭けに20億ドルを費やし、そして賭けに勝ったのです。

　しかし、最も驚異的なのは、その事業の大きさでも、機密度の高さでも、費用でもありません。それは科学者の頭脳が達成した成果、すなわち、それぞれ異なる科学の分野において多くの人々が、無限に複雑な知恵のピースを実行可能な形で計画の中に組み上げていったことであります。
　そして、必要な工場群やそれを運用する人員の規模も、それまでだれもやったことのないことを実現するための機械や技法も、さらには、多くの人々の知恵の結晶が現実の形をもって生み出され、予想した通りにその力を発揮したこともまた、ほとんど同じくらい驚異的なことでした。
　科学の力と産業の力の両方が、アメリカ陸軍のもとで手を携えて働き、その結果として、科学技術の進歩における数多くの問題を解決し、だれも成し遂げたことのない成果を驚くほど短い期間で達成したのです。
　これほどまでに成し遂げられた協力というものは、世界中を見渡しても他に例を見ないでしょう。組織化された科学の力が、まさに史上最高の成果を達成したのです。しかもそれは、大きな重圧のもと、失敗することなく成し遂げられたのです。

　我々は今や、日本がこの地上のいかなる都市に有する生産的な拠点をも、今までより迅速に、完璧に抹消してしまう準備ができています。
　我々は彼らの造船所を、工場を、輸送機関を破壊するでしょう。疑うべくもなく、我々は日本が戦争を続ける力を完全に破壊することでしょう。

　7月26日にポツダムにおいて出された最後通告は、日本の人々を完全な破壊から救うためのものでした。しかし日本の指導者たちは、その最後通告を速やかに拒絶したのです。
　彼らが今なお我々の提示した条項を受け入れないなら、彼らは空から雨のように下る破壊の力を身をもって知ることでしょう。その結果は、地上においていまだかつて見たこともないようなものになるでしょう。
　この空からの攻撃のあとには、彼らが今までに見たこともない規模の海上と陸上の戦力が続くことになります。その腕のほどは、彼らもすでに知っていることでしょう。

　陸軍長官は、この計画の全段階において自ら関与していましたので、本計画についてのさらなる詳細について、公式の発表をこのあとすぐ行うことになっています。

　その発表には、テネシー州ノックスヴィル近郊のオーク・リッジと、ワシントン州パスコの近くのリッチランドにある施設について、またニュー・メキシコ州サンタ・フェの近くの施設についての事実が含まれます。
　これら施設で働く人々は、この史上最大の破壊力を生み出す兵器を造っていたわけですが、彼ら自身には、他の職種を超えるような危険は何もありません。彼らの安全については最大限の配慮がなされています。

　我々が原子の力を解放するのに成功したということは、自然界の力についての人類の理解に新しい時代をもたらすものであります。
　原子力は、将来においては、現在我々が石炭や石油、流れ下る水から得ているような動力を補うものになるかもしれません。
　しかし現在において、この力は基本的には商業的にそれらの力とくらべられるようなものにはなっていません。そのように利用できるようになるまでには、まだ長期間の集中した研究が必要なのです。

　従来、我が国の科学者の習慣や政府の政策において、科学的な知識を世界に対して隠しておくということはありませんでした。従って、通常であれば、原子力研究に関するすべてのことは公開されることになっていたでしょう。

　しかし、現今の情勢においては、製造における技術的な手順や軍事的な応用について公表することは予定されておりません。
　我が国や世界中の人々を突発的な破壊の危険から守るために実現可能な方法についてのさらなる検討がなされるまで、それらは公開されることはないでしょう。

　私はアメリカ合衆国議会に対し、アメリカ国内における原子力の製造および使用を管理するための適切な委員会の設立を速やかに検討することを勧告します。
　また私は、議会に対して、原子力が世界平和構築に対してどれほど強力で抗しがたい影響力を持つかについての意見と勧告を与えるつもりでおります。

原注・この発表はワシントンから発送された。原稿は大統領がドイツへ出発する前に書かれ、スティムソン陸軍長官が、爆弾が使用された時に発表する権限を得ていた。
　８月６日、大統領はポツダム会談からの帰途にあって軍艦「オーガスタ」号に乗っていたが、艦上からスティムソン長官にあてて、原子爆弾が８月５日午後７時15分に投下されたことを知らせる通知を行った。