本ページは、メディアなどで「人食いバクテリア」と呼ばれる細菌感染症についての、アメリカ疾病管理予防センター（ＣＤＣ）のサイトの記事からの翻訳です。


壊死性筋膜炎

――けがをしましたか？　熱や悪寒や嘔吐があるなら、すぐにお医者さんに見せましょう。


　壊死性筋膜炎（えしせい-きんまくえん）は重篤な皮膚からの細菌感染症で、急速に組織に広がり、人体の軟部組織を損なう病気です。「壊死性」というのは、組織の死滅をもたらす、という意味です。
　困ったことに、壊死性筋膜炎は短い時間で人を死に至らしめうる疾患です。迅速な診断と、即時の抗生物質の投与（抗生物質は体内に侵入した細菌を殺してくれます）、そして手術が感染を食い止めるために必要です。

　メディアにおいては「人食いバクテリア」と呼ばれることが多いのですが、この比較的まれな疾患は複数の種類の細菌が原因となります。
　それらの細菌は、Ａ群連鎖球菌、クレブシエラ（肺炎桿菌）、クロストリジウム（ウェルシュ菌）、大腸菌、黄色ブドウ球菌、アエロモナス・ヒドロフィラ菌などです。
　その中で疫学上もっとも頻度が高いと考えられているのは、Ａ群連鎖球菌（溶連菌）です。

　Ａ群連鎖球菌（溶連菌）感染症は、通常はさほど劇症化せず、治療もたやすいものです。
　しかし壊死性筋膜炎においては、この細菌は、体内に侵入するやいなや急速に体内に広がっていきます。
　この菌は筋膜（筋肉、神経、脂肪組織、血管を包んでいる結合組織）を侵し、筋膜に接する組織にも広がっていきます。
　時にはこれらの細菌は毒素を出して感染組織を破壊し、死滅させることがあります。そうなった場合には、感染は深刻なものとなり、手足を切断しなければならなかったり、死亡したりすることもあります。


適切な傷の処置が大事

　常識的な、適切な傷の処置が細菌の皮膚感染を防ぐ最良の方法です。
・浸出物がある傷、開いたままの傷は、治るまできれいな乾いた包帯で覆っておきましょう。
・小さな化膿していない傷（水ぶくれ、ひっかき傷など、どんな皮膚の損傷でも）でも、急いで応急手当てをしましょう。
・傷口が開いていたり化膿していたりする時には、傷を洗濯機や風呂、プール、自然環境の中の水（湖、川、海など）の中に長く浸さないようにしましょう。
・せっけんでひんぱんに手を洗いましょう。洗えない時にはアルコール性の殺菌剤を使いましょう。


壊死性筋膜炎は移りにくい病気です

　一般的に、壊死性筋膜炎はほかの人には移りません。
　壊死性筋膜炎の発症は偶然によるものです。壊死性筋膜炎の原因菌が体内に入るときの、最も可能性の高い経路は皮膚の傷からです。切り傷、ひっかき傷、やけど、虫刺され、刺し傷などが経路となりえます。


頻度は低いのですが、かかりやすい人というのはいます

　壊死性筋膜炎はまれな病気です。正常な免疫体制を持ち、衛生的な生活をし、傷を適切に手当てしていれば、発症の危険は極めて低いものです。
　壊死性筋膜炎にかかる人は、ほとんどの場合健康上の問題を抱え、感染と戦う体制が衰えている人たちです。そのような状態には次のような場合が含まれます。
・糖尿病
・腎疾患
・がん
・その他の免疫系に悪影響を及ぼす慢性疾患


症状は早く出ますが、まぎらわしいことも

　壊死性筋膜炎の患者には、けがをしてから数時間のうちに症状があらわれることが多いのです。しかしその症状にはほかの病気や傷の症状とまぎらわしいものもあります。
　たとえば、患者の中には肉離れのような痛みを訴える人がいます。皮膚が熱を持ったり、赤や紫色の腫れが急速に広がっていくこともあります。皮膚の表面に潰瘍や水ぶくれや黒い斑点が生じることもあります。
　患者の多くが、傷の見た目からは考えられないような激しい痛みを訴えます。その他の症状としては、以下のものがあげられます。
・発熱
・悪寒
・倦怠感（だるい感じ）
・嘔吐
　これらの症状が重なり合うと、お医者さんもその原因を見つけるのが遅くなることがあります。
　けがをした後にこれらの症状が現れたら、すぐにお医者さんに行って傷を見てもらいましょう。


速やかな治療が必要です

　この病気と戦う第一の武器は、静脈内への抗生物質注射・点滴です。
　しかし、毒素の作用で軟部組織が死滅して血流が届かなくなってしまった個所へは、抗生物質が届きません。そのため、そうした場合には、抗生物質に加えて、外科手術によって死滅した組織を除去することが必要になります。
　このような手術は感染を止める決定的な手段となりますが、速やかに行わなければなりません。


ＣＤＣは主要な原因菌の監視調査をしています

　ＣＤＣ（アメリカ疾病管理予防センター）は、Ａ群連鎖球菌による壊死性筋膜炎の発生を、能動的細菌中心調査（Active Bacterial Core Surveillance, ABCs）と呼ばれるシステムで監視しています。
　2010年以来、アメリカ合衆国内で約600から1200件の発生が見られます。この数は実態を下回っているものと思われます。
　ＡＢＣｓのデータからは、Ａ群連鎖球菌による壊死性筋膜炎の年間報告数が増加しているという兆候は見られません。

＝＝＝＝＝翻訳ここまで＝＝＝＝＝


訳注：日本では、劇症連鎖球菌感染症（壊死性筋膜炎を含む）は感染症法で第５類感染症に定められており、医師から保健所にもれなく報告する義務があります。

　東京都感染症情報センターのサイトもご覧ください。

　本ページはアメリカ疾病管理予防センター（アメリカ合衆国の公的機関です）ウェブサイト記事　https://www.cdc.gov/Features/NecrotizingFasciitis/ （古いのでリンク切れ）の翻訳であり、必ずしも日本国内の状況を反映していません。
　2024年６月現在、劇症溶連菌感染症のページはここにあります。

　劇症型でない一般的な溶連菌感染症については、弊サイトのこのページをご覧ください。

　翻訳者（Daimyoshibo）は臨床検査技師免許を持つ医療有資格者ですが、医師ではなく、個別の症例に対して一切のアドバイスや判断を示すことはできません。
　本ページの内容に重大な誤訳・不適切な表現などを発見されましたら、メールにてお知らせいただければ幸いです。


This page is a Japanese translation of the following article in the website of CDC: Centers for Disease Control and Prevention.
https://www.cdc.gov/Features/NecrotizingFasciitis/ “Necrotizing Fasciitis” (obsolete URL)


(translated and uploaded on 25. December 2017 by Daimyoshibo)
(updated on 15. June 2024 by Daimyoshibo)



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